製鉄所で普及など、ルーツ諸説あるが「ご安全に!総務グループです!」とある製鉄所に電話をかけると、こんなあいさつが返ってくる。一般には聞き慣れないが、北九州市の重厚長大産業や港湾などで働く人たちは、ごく自然に「ご安全に!」の合言葉を使う。
高炉から流れ出るしゃく熱の溶鉱、鉄の塊から鋼板などを造り出す巨大なプレスやローラー。製鉄所ではちょっとした油断が重大事故につながる。「ご安全に!」は互いの注意力を呼び覚ますとともに、互いの安全を祈るあいさつだ。
地元プラントメーカー、高田工業所の社史では、「昔から八幡製鉄所内で交わされていた合言葉」と紹介されている。が、同製鉄所の広報担当で製鉄所の歴史にも詳しい入佐純一さんによると、「製鉄所で生まれた言葉だと証明する資料は見当たらず、炭鉱が発祥だという説を聞いたこともある」という。
同製鉄所の所報のバックナンバーを調べてもらうと、1968年の2月に「ご安全に!」のステッカーを従業員に配り、家庭でも声を掛けるよう呼び掛けた記事かあった。その前の号には対談の中で幹部が「”ご安全に”にはなれましたか?」と所員に聞くくだりがあり、この時期に組織的な普及活動があったのは間違いない。
ルーツがどこかは別にして、当時三万人を超える従業員を抱えていた同製鉄所が「ご安全に!」を広める原動力になったのは確かなようだ。